室生晃一 | 役所広司 | かつては売れっ子として名をはせたが、時代の流れに乗ることが出来ず、やや盛りが過ぎたと評価されている脚本家 |
大木(逢木)新子 | 永作博美 | 室生の弟子。かつて恋人関係にあり、現在は売れっ子シナリオライター |
澤村雪夫 | 國村隼 | 舞台となる沖縄のリゾートホテルの怪しげなバーテン |
かつて恋人時代に宿泊したことのあるリゾートホテルで2年ぶりに偶然再会した晃一と新子は、新子がテレビ局から依頼されていたドラマの脚本を共同製作することになる。実力ある2人による丁々発止の共同製作は、衝突と融和を繰り返すジャズ・セッションのようなものであった。2人の間に存在する溝を埋める存在として、嘘とも真実とも言えない話を絡めつつ行く末を見守る澤村。セッションの心地よさを感じながら、晃一と新子の間に甦る懐かしい感覚。虚構の恋愛を描き出すことには巧みな二人であったが、現実の恋愛には至って不器用な二人であった・・・
本作は役所広司氏の作品であるの如何に限らず、私が初めて劇場に足を運んで観劇した作品である。私が舞台と縁遠い理由は既に「舞台について」でも言及している。私は高校時代の役所広司氏が友人の演劇部員に抱いていたような「気持ち悪さ」こそ感じないが、観劇が特殊な行為である地方在住者としては、相当のきっかけがないことには実行に結びつかない。
過去の私の人生唯一の「相当のきっかけ」が「リム亭」であった。頑迷なるオールドファンを自負していた私にとって、HP開設以前は「役所広司氏の舞台」に対して全く関心が無かったからである。しかし当時おかれていた職場状況から考えて、リム亭の公演時期である「8月のお盆前」に休暇を取ることは不可能であった。私の勤務業種を考えると、8月は比較的閑散月で休暇も取りやすい時期と普通は考えられる。しかし、たまたまこの時期配属されていたのが「8月のお盆前が一年のうちで最も忙しい」という特殊な勤務地(恐らく全ての勤務地の中でこんな特殊性を持っていたのはここだけ)であった。結局この勤務地に配属されていなければ、「リム亭」を観に行けたのだ・・・「自分は舞台とつくづく縁遠い」と感じざるを得なかった。
本作は2003年の春に公演されることが発表された。役所広司氏8年ぶりの本格的舞台出演・ホテルのバーを舞台にした3人のみの芝居、という話題がとりあげられていた。今回も実は7月という時期は厳しい時期ではあったが、連休を絡めれば何とかなりそうだった。私は祈る思いで事前予約の電話をかけた。こうした行為も初の体験である。そう言えば「チケットを電話予約しなければならないようなコンサート」にも行ったことがないんだった・・噂ではこの種の電話はなかなか繋がらないと聞いていたが、3度目くらいで繋がり、予定通りの日程(7月20日)で予約が出来た。近所のローソンからチケットを購入したが、前から4列目センター席であったことにも運を感じた。(実は「売れてないのかな」と思ったりもしたが、当日は満席状態であった。早い者勝ちだったのである)
登場人物が3人のみで、場面の展開が無い芝居で3時間近い時間となると、観客を飽きさせない仕組みが必要となる。私が舞台というものに関心を持てなかったのはこの点である。本作はどうだったかというと、冒頭役所広司氏が慌ただしくバーに駆け込む瞬間から、中間の休憩を挟みカーテンコールまで、ある時は大笑いし、ある時は涙しながら、3時間近い時間を劇場という初めて体験する空間で心地よく過ごさせてもらった。シリアスな場面の中に突如挿入される「笑えるシーン」や、そのシーンの直後に現れる「泣けるシーン」等々、急展開の連続は観客を飽きさせない。また、この脚本に役所広司氏・永作博美氏・國村準氏という「特定の役に染まらないタイプの役者」を起用していた(当て書きとの事であるが)点も巧みであったと感じられる。
2003年クリスマス直前にDVDとシナリオ本が発売された。そのタイミングに制作側の恣意を感じる人もいるだろう。反面、諸般の事情や居住地の関係で劇場に足を運ぶことが物理的に困難という方も数多くいるし、作品の内容(今回の場合カクテル関係の台詞が多く、一度聞いただけで理解するのは難しい)を深く知る上でも、ソフト化してくれたことに対し率直に感謝したい。作品の全体像を知る上でソフトの果たす役割は極めて重要である。
しかしながら改めてシナリオ本を読みDVDを観ると、やはり舞台は劇場にいた人間でないとわからない部分が多い、という感想を持ってしまうのも贅沢なことではあろうが事実である。
ソフト化されると「ソフト制作者の主観による視点」になってしまうという欠点がまずある。本DVDはメインアングルとサブアングルがあり(この点では技術の進歩だろう)メインアングルではカメラの切り替えがあり、サブアングルはカメラを固定している。俳優の表情を知るにはメインアングルが適しており、舞台全体の流れを把握するにはサブアングルが適している。しかし実際に舞台を観ている人間はこの2要素を自分の目で調整して「奥行き」を感じながら観ている。これを表現できれば凄いが、流石に恐らく将来に亘っても不可能であろう。
加えて実際に演ずる人間を目の当たりにしないと感じられない「息づかい」を知るには、やはり現地に赴くしかない。もっと言うと奥深くまで「息づかい」を感じるためには、私のように1度の観劇だけでは到底不十分で、数回足を運ばないとダメなのかもしれない。こうなると地方在住者にはやはり敷居が高い。本作は東京~名古屋~大阪の3都市で公演されたことで、東京のみの公演よりは幅広い層に舞台体験の機会を提供してくれたわけだが、個人的には札幌でもやってほしかった。(恐らく札幌公演が仮にあったとしても、東京に出向いたと思うが)
またしても長々と関係ないことを書き連ねたが、観劇されていない方には当然の事ながら、観劇された方にも是非DVDとシナリオ本(サントラ付である)を購入されることをおすすめしたい作品である。
(初稿 2003.12.31)