放送日 1993年6月7日「月曜ドラマスペシャル」(TBS系)
将棋界が舞台のドラマで、話の端々に「業界用語」が登場する。私は中学・高校時代かなり将棋に入れ込んでいた時期があり(最近は周りに相手がいないので随分疎遠となっているが)これらの事情も難なく理解できる。しかし、関心のない人(特に女性)には全く理解できない用語が飛び交う作品と言えよう。
アマプロ交流戦である「竜将戦」に真剣師八神(根津甚八)が出場する。八神はかつてプロを目指し奨励会にも所属したことがあったが、「26歳の枠」(満26歳までに四段昇段できなければ退会になる制度。このドラマ設定では現在行われている「三段リーグ」が無かった時代)に阻まれプロとなれず、賭け将棋を生業とする「死神」と呼ばれる真剣師となっていた。奨励会最後の一戦で対局したのが竜将の谷山(豊川悦史)だったこともあり、八神は谷山と将棋連盟に対する復讐心を持って対局に臨んでいた。自分も奨励会リタイヤ組であり、彼の境遇に関心を持った将棋ライター金田(役所広司)は、自分の所有するアパートに彼を住まわせる。その後、八神にかつて父親が世話になったという美杉(とよた真帆)も転がり込んでくる。いよいよ竜将戦開始という矢先、八神の対戦相手の黒木が自宅で殺される。この事件が解決されないうちに、第2・第3の殺人が発生。まず八神が疑われ、次には金田の境遇(父親が「傀儡師」を名乗る真剣師だった)ことから金田までが犯人として疑われる。しかし真犯人は意外な人物であった。
最初に書いたように、舞台構成はやや取っつきにくい部分があるかもしれない。ただ、同じような境遇にありながら、ストイックに生きていく者(八神)と、夢やぶれた敗者(金田)の対比を描いた作品と考えるとわかりやすい。ただそう単純だと話にならない。確かに金田というキャラクターも普段はかなりチャランポラン(賭け将棋で勝った金でソープランドに行ったことを自慢したり)である。しかし「あなたも奨励会を挫折したんでしょう」と刑事に軽く言われたことに対する反駁や、一介の将棋ライターでありながら将棋界の重鎮に強く意見する場面・ラス前、八神の将棋に対する決心を試し、動揺を誘うべくわざと「美杉を無事に帰して欲しければ負けろ」と電話をかけるという、何とも鬼気迫る場面あたり、やはり勝負師としての一面を覗かせる部分だ。この振幅の大きい役をなんなくこなしているあたりが役所広司である。ただ役所広司の最近の傾向からすると、金田的な役はこの時期の単発ドラマだからこそなのかな、という気もする。「合い言葉は勇気」の暁仁太郎役はまさにこの系統の役柄なのだが、一般にはかなり意外に感じられたように思えたので。
(初稿 2001.5.6)