これも「極東黒社会」同様「極道もの」作品である。
ここでの役柄は大阪の暴力団組織「吉留組」の2代目組長吉川一平。彼は近年の極道者がかつてのそれのような「一本気」がないことを嘆く昔ながらのタイプの極道である。そのため組の運営資金にもかなり苦労し、料亭のツケもたまる一方。その日も料亭に行って一杯やっていると、隣の座敷がやたらとうるさい。注意をしようとその座敷に行ってみると、見覚えのある顔。何とかつて世話になった丸三不動産島本の息子で、現在若社長となっている島本忠男(阿部寛)であった。忠男は一平を「一平兄ちゃん」と呼び、一平らは「若」と呼ぶ仲。すっかり意気投合した彼らは一緒に行動するようになる。「一度賭博をやってみたい」という忠男の依頼で一平は賭場を設ける。そこで一人で賭をしていた珠子(仁藤優子)に一平は一目惚れ。「一生大事にしてやる」という殺し文句をはき、すぐ手を着けてしまうあたりが性格か。その頃忠男は自分の会社である丸三不動産の土地をホテル建設のために使うことを考え、地上げの手伝いを極道として場数を踏んでいる一平に依頼する。その一方、忠男は一平に実は珠子に惚れてしまったことを告げる。一平は珠子を捨て、珠子は複雑な想いでそれを承知する。
ところが肝心の地上げがなかなか進まない。というのも吉留組のライバルである毒島組の関連者がかなり店子として居座っていたからである。一平は毒島組組長の毒島伝次(本田博太郎)に協力を依頼し、毒島もそれを了承する。しかしこの毒島がくわせものであった。口八丁で世間知らずの忠男を騙して手形を乱発させ、ついには書き損じの手形を偽造して28億もの手形を仕立て上げる。抜き差しならなくなった忠男は自殺未遂までしてしまう。一平は何とか忠男の自宅には手を着けないように毒島に交渉しに行くが、全くにべもない。ついに一平は最期の行動を実行する・・・
ストーリーは大体こんな感じで、よくある極道物のパターンであるが、役所広司が主役なだけになかなか魅せてくれる。喋りがまずそう。極道者を演ずるときの役所広司はよく喋る。かなりセリフが多い感じである。これは「シャブ極道」あたりでもその傾向が見られるところ。最近の傾向としては寡黙な役が多いだけに尚更そう感じる。しかしながら役所広司はここでの一平のようにかなりハイ・トーンで喋りまくる役もかなり多い。「千石」がそうだし「信長」も改めて見るとかなりそういう感じである。その他、珠子に植木鉢で殴られるシーンなど、笑える部分も多い。
その一方、役所広司独特の緻密な演技も随所に見られる。私が一番しびれたのは忠男が自殺未遂をするシーン。マンションから忠男が飛び降りた後、珠子と一平が駆け寄る。救急車が呼ばれる。忠男を運び出す救急隊員。一瞬珠子が立ち止まって一平の方を見る。(実はこの直前一平から「また最初からやり直そう」と言われている)その珠子の姿を見た一平は、「あっちへ行け」という仕草をする・・・この仕草とその表情が何とも哀愁の漂う演技なのである。
その他にも、一平が「最期の行動」を実行する部分が、全編モノクロームだったりするところや、毒島が一平に向かって最後に言う言葉など、なかなか極道物のツボを押さえた作りで盛り上がらせてくれる映画である。
(初稿1998/6/18)