1980年公開の作品である。
本作についてはサイト開設当初(1997年時点)から役所広司氏の出演作品として紹介していた。筆者が役所広司という俳優を意識するようになったのは「徳川家康」からであるが、ちょうどその頃に地上波で本作が放送されていたこと(おそらくはTBS系の「月曜ロードショー」)が強い印象に残っていたからである。このようにサイト上は役所氏の出演作品として紹介していたが、実際の視聴機会は前述以来全くなかった。しかしながら、今般のサイト再構築に当たり、あらためて検索をかけてみたところ、先年にDVD化されていたことを知り、約40年ぶりに鑑賞できた次第である。
ストーリーは1954年に発生した「カービン銃ギャング事件」の主犯である「K.O」氏著の同名作品の映画化である。事件の主犯である大澤(磯部勉氏)が逃走の末逮捕された後、残していたメモから既に迷宮入りしたと思われていた別の殺人事件の犯人であることが判明したことで、死刑間違いなしとされ。死刑囚が収監される拘置所に入れられた後、一審では死刑判決を受ける。この境遇に対し、当初は「死刑を逃れるためにいかにして脱走するか」を狙っていたが、同じく殺人により収監されていた黒木(永島敏行氏)がいったんは脱走に成功したものの結局はつかまり死刑執行となるという姿を目の当たりにしたことで、脱走よりも法により死刑を逃れることに転じ、独学で刑法・刑事訴訟法を学び、最終的には無期懲役確定となるというもの。
役所氏は「カービン銃ギャング事件」の共犯として登場。映画冒頭で保安庁技術研究所の係長に小切手を作らせる場面ではもう一人の仲間と共に係長に銃口を向けている場面で大写しになるなど、数回カットがあるが台詞は無い。その後車内に拉致していた係長が信号待ちのタイミングで交番に駆け込んだことで事件発覚となるが、ここで逃走を図ろうとする大澤に対し「なんで(アジトである)四谷に帰らないんですか?金は全部四谷にあるんですよ」という台詞があるが、ややハイトーンでいかにも犯罪慣れしていないお兄ちゃん風である。(直後に大澤に「つかまりたかったら勝手に行け」とたしなめられる)その後はそれぞれが別々に逃走することになるが、かなり早い段階で逮捕されてしまう。
筆者は映画の構成からいってもそこで終わりだろうと予想していたが、主人公が一審で死刑判決、二審で無期懲役判決となる裁判の場面において被告人として出演している。よって本作における役所氏の台詞は前述だけなのだが、役所氏ファンなら冒頭を見るだけでも価値があるだろう。
映画作品としても佳く出来ている。大澤は九州の国立大学卒で英語堪能、元保安隊員として米軍との折衝も行っていたというエリート。事件発覚直後の冷静な行動や、逮捕された事件そのものは「恐喝・拉致・監禁」であり死刑はないと踏んでいたが、過去の殺人事件(取引上のトラブルから高利貸しの男性を殺害)に嫌疑が及んでいることがわかると、心神喪失を詐病しようとするなど、単に凶暴・短絡的な犯罪者ではないことが描写される。中盤は同じ拘置所に収監されている死刑囚との接点が描かれるが、前述した永島敏行氏のほか、高橋昌也氏・愛川欽也氏・室田日出男氏・石田純一氏などが実在の死刑囚役として登場している。
なお、本稿時点(2022年)の感覚で本作をみると、死刑判決の直接要因となっている高利貸し殺害では被害者に騙されていた要素が大きく、このケースで死刑求刑は無いのではと思うが、この事件が発生した頃は「人を殺したら死刑」という感覚たったのであろう。
(全面改稿 2022.10.10)