放送日 1996年4月8日~9月23日 テレビ東京系
テレビ東京で放送されたハードボイルド刑事ドラマである。2クールにわたる放送のわりにはマイナーな作品といえよう。何と言ってもテレビ東京の映らない地域(実は管理人が居住する北海道はテレビ東京系の放送局があるのだが、大半は映らない地域である)が他の系列局より多いことがその原因であろう。加えてビデオ化もスペシャルの第1話を除きされていないことも影響している。
ここでの役所広司演ずる沢木刑事であるが、アウトロー・一匹狼的な刑事である。同僚刑事として登場する馬島(布施博)が集団化・組織化した捜査を信条とするのに対し、沢木は基本的に一人で行動し、自分の管轄外の事件であっても疑問を感じると放っておけない、というタイプ。そのため周囲との衝突・軋轢が絶えない。かといって非情なわけでもない。結局「疑問を感じると放っておけない」のである。
この作品の本放送時、「役所広司主演」「著名な映画監督による連作」等の見所があったのにもかかわらず、あまり着目されることがなかったような気がする。結局上記した「テレビ東京系列」であったこともそうだが、「裏がロンバケだった」というのが大きく影響した。しかし重厚なストーリー・主演の役所広司と脇を固める名優たち、という構造で、隠れた傑作刑事物であるといえるだろう。
これまで機会があるごとに感想を書いていこうとしてきたが、なかなか出来ないで来た。今般CS「チャンネルNECO」で週1オンエアが開始されたので、何とかこれにかこつけてストーリー解説を兼ねて載せていこうと思っている。
第1話は1時間30分のスペシャル版。作品中唯一ビデオ化されてもおり、一寸したレンタル店で見つけることが出来ると思う。第1話という事で、通常なら軽い話で顔見せということになるのだが、そこはハードボイルド、始めからかなり複雑な事件内容である。
資産家を狙った一家惨殺強盗事件が発生する。生き残ったのは幼い子供だけという状態で、捜査は難航。一方、沢木は常連の喫茶店のアルバイト幸子から夫が最近怪しい男につけられているので何とかして欲しいという相談を受ける。夫は神戸に出稼ぎに行っており、一人で不安だと話す。こちらの手がかりもなかなかつかめないでいたが、そんな矢先近くの川から若い男性のバラバラ水死体が見つかる。結局この死体が夫であった。何故夫は殺されたのか・・・この一見何の関係もなさそうな2つの事件が複雑に絡んでいた様が徐々に明らかになっていく。
第1話では沢木の2つの面が巧く出ている。夫からの手紙を待つ幸子に、鑑識に依頼してまでも手紙を出してあげるという「優しさ」と、犯人に対する「凄味」である。ただこの「優しさ」が良い結果を招かないのは誰にでもわかる。それでもやらずにいられないというのが沢木の人間味なのだろう。(2001.1.8)
第2話はゲストとして藤真理子が登場。オールドファンにはまさに「旧き同期生」という役柄にぴったりとくるところである。
リサイクル店に強盗が押し入り、現金を強奪した上店主を殺害するという事件が発生。その時偶然にも酔っぱらいながら近くを通っていた(藤真理子)は、犯人が落としたと見られる血のついた一万円札を拾う。翌日財布の中に入っていた一万円札におびえる(藤真理子)は、高校時代の同期生である沢木に連絡した。力になることを約束した沢木であったが、刑事という職種柄(藤真理子)の私生活(離婚寸前の夫婦関係)に踏み入り、そのことで衝突してしまう。一方本題の捜査も意外なところから真犯人像が浮かび上がる。結局は被害者の空虚な家族関係が引き起こした悲劇であったのだ。(2001.1.28)
第3話のゲストは麻生祐未と角野卓造。それぞれ冷静な弁護士と経営難のスーパー店主役であるが、特に角野卓造のショボクレさにはいつもながら感心させられるところだ。
不倫関係にあったスーパー社長の妻を殺害し、逮捕された女。本人もあっさり罪を認め、有罪間違いなしという状況にある。その裁判に沢木が証人として招致された。沢木はかつてこの女が母親に対する殺人未遂を起こした際、取調べをしたことがあった。弁護士は不倫を続ける母親を憎んだ挙句に殺人未遂を起こした人間が、同じ不倫という行為をするはずがないという観点から攻めていくため、沢木を証人として招致したのだった。招致に応じた沢木も、事件そのものに対する疑問が沸き起こり、他の警察署の管轄にもかかわらず個人的に調査を開始する……。
基本的に刑事ものドラマは「捜査して犯人を捕まえてそれで終わり」というパターンが多いと思う。だが実際にはその後に裁判があり、場合によっては証人として出廷を求められるケースもある。刑事ドラマでこの「裁判」部分がストーリーの根幹をなすという展開は珍しい(「古畑任三郎」の初回が代表的か)のではないだろうか。
他にも、沢木の「こだわりを持ったことに突っ込んで行く」性格がよく表現されたストーリーでもある。普通他の警察署が捜査したことまで首を突っ込むだろうか。実際にこういう人間がいたら煙たがられることであろう。(2001.1.28)
第4話のゲストはウルトラセブンで有名な森次晃嗣。実直な技術屋役として登場する。
早朝、男性の他殺死体が発見される。死体は人材派遣業を行っていた末永という男だとわかるが、この男はゆすり・たかりで幾多の女性を食い物にして暮らしているような男だった。第一発見者でもある沢木は、例によって独自捜査を開始。そんなおり、末永の身元を探るため出向いた警察署で、情報が外部に流れている実態を知り、改めて警察の腐敗の実態を感じさせられる沢木であった。
捜査を進めて行くうちに、末永が殺害される前日、末永とバーで会っていた戸村(森次晃嗣)という男が浮かび上がる。早速戸村に事情を聞くが、全くゆすられるようなネタをつかまれているとは思えない生活ぶり。唯一3年前に長女が変質者に乱暴された挙句惨殺されたことがあったぐらいだ。その頃、発見されていなかった凶器の鉄パイプが見つかり、戸村の指紋が検出された。犯人は間違いなく戸村である、しかし動機がわからない。あせる沢木だったが、事実は意外なところにあったのだ・・・・
犯人探しというよりも動機探しがテーマである。そのために暴力までふるって情報を収集しようとする沢木の姿勢は何ともやりすぎの感が否めない。流石に馬島に「警察が市民の信頼を失ったら終わりだ」と説教されるが、沢木は「組織を信じていると自分が腐っていることに気づかなくなる」と返す。このやりとりに両者のキャラがうまく表されているだろう。
その一方、終わり方の後味の悪さも何ともいえないものがある。結局警察内部資料が末永の元に流れていたことが判明し、警察官が処分はされるものの形式的なもの。現実はこんなものなのだろうか・・(2001.1.28)
第5話のゲストは峰岸徹。患者からの評判もいい有能な外科医であるが、一方で裏で何かやっていそうな怪しい感じの人間。
沢木はダンサーを目指す恵と知り合いとなる。そのきっかけは恵が自転車で転んで怪我をした際、たまたま沢木が助けて病院に運んだことであった。沢木は恵から相談を持ちかけられた。最近誰かに見られているような気がするというのである。(今なら「ストーカーに遭っている」と言うところか)結局バイト帰りの深夜のダンス練習ボディガードを引き受ける沢木。ある日いつものように練習としていたところ、何者かに殴りつけられるという事件が発生。その犯人は取り逃すが、たまたま通りがかったという恵の主治医でもある外科医及川に何ともいえない「胡散臭さ」を感じる沢木。実は及川が恵を監視していた男だった。及川の周辺を捜査するうちに、妻が殺されており犯人が捕まっていないことがわかる。この犯人が及川であると直感した沢木は、及川にカマをかけるが全く動じない。逆に及川に罠にはめられ(何とも凄い描写のシーンである)覚せい剤所持の疑いで追われる立場となってしまう。この危機をどう乗り越えるのか・・・
このころはまだストーカーという犯罪行為が今ほどメジャーではなかったと思う。警察としての対応も「そんなの気のせいだろ」で、ほんの数年前のことなのだが現在との違いを感じさせられる部分である。一見暴力的だが繊細な面を持つ沢木と、一見繊細だが実は暴力的という及川の対決場面も見物。(2001.1.28)
ラーメン屋に勤めていた若い男「野口」が、店主との些細ないざこざが原因で店主を切りつけて逃走、そのまま近くにいた若い女を人質に廃屋に籠城することとなる。警察は説得を試みるべく、男の身寄りを探すこととなり沢木が対策本部の刑事と共にその役目を担うことになる。
若者の短絡的な犯行と斬り捨てる刑事と、その意見に疑問を持つ沢木。ところが野口の身寄りを過去をたどりつつ探しているうちに、この男が行く先々で結果的に定職に着くことに失敗している上に、名前を「野口」に至るまで「木下」「渡辺」「井上」とコロコロと変えていることが判明する。この事実からこの若者が何らかの事件に絡んでいるとみた刑事は、説得は無理と判断し現場に戻るが、沢木はあくまでも任務を果たすべく身寄りを探す。
現場では人質の若い女が財界の大物の放蕩娘であることがわかり、上層部からの圧力から強行突破に傾く。その頃沢木は「野口こと木下」が最も長い間世話になったという家坂を捜しあてる。木下と共に勤めていた工場が倒産した後、新たに小さな町工場を開いた家坂もまた、木下を探していた。木下は東北の農家の出で、ダム開発で住まいを追われ、立ち退きで得た資金も父親が株式投資に失敗し、結局一家離散したのだという。家坂は木下を説得することに同意し、現場にやってくる。沢木の狙い通り木下は家坂の説得に心を開いたのだが・・・
社会の底辺にあって必死に生きていこうとする人間と、何不自由なく放蕩暮らしをする人間の対比を描く。結末の後味の悪さが印象に残る作品だ。ここでの沢木はあくまでも信念に基づき調査した結果、徐々に見えてきた悲しき人生を歩まざるをえなかった犯人を助けようと努力する人間味あふれる部分がある一方で、悲劇的なラストに「ある日地図から消された村があって、そこから来た誰かが、消されたということだ」と突き放すという二面性を示す。これは現実を直視して自分の非力さに腹が立っている台詞なのだろう・・・(2004.9.8)
第7話以降は未作成です。