グッド・バイ 私が殺した太宰治

放送日 1992年6月19日 「金曜ドラマシアター」(フジテレビ系)

これまでいわゆる「2時間ドラマ」について触れていなかったが、一寸前(4~5年前)役所広司の単発ドラマ出演はかなり多かった。しかしながらほとんどが現代劇であり、当時「役所広司の現代劇出演」に対し違和感を持ち続けていた管理人はほとんどチェックしていなかった。よってこのあたりの記録がスッポリと抜けてしまうことになる。今になって考えればそういった違和感を持つべきではなかった。残念至極である。
しかしこれもこのHPを開設しているご縁というもので、いくつかの作品については入手することが出来た。(と言ってもほとんど持っていないに等しいのだが)とりあえず第一弾として「グット・バイ 私が愛した太宰治」を紹介してみたい。

この作品は一連の単発ものの中では最も人気があるようだ。私に届いたメールや掲示板等でも「この時の役所広司の演技は佳かった」という感想をお持ちの方が多い。
ストーリーは、教会に現れた男が「自分は太宰治を殺した」と懺悔するところから始まる。その男高見(佐藤B作)は、太宰治に最愛の女性を殺されたと信じて執拗に太宰とその周辺を追いつめる。高見は積極的に太宰の生活を破壊しようとするが、太宰は窮地に立たされる毎にその時関係を持っている女性に「心中」をもちかけ、そのたびごとに自分だけが助かり、名声が上がっていくという行動を繰り返す。高見の最愛の女性もそうだったし、太宰最初の妻紅子もそうだった。そんなことをしているにもかかわらず名声の上がっていく太宰に憤りをつのらせる高見であった。さて、戦争も終わり、「斜陽」が大ベストセラーとなり、一躍流行作家として名声の上がった太宰。そのころ戦争未亡人の山崎富栄と関係を持つようになるが、持病の結核は極限状態となっていた。ついに富栄に「心中」を持ちかける太宰。しかしその一方で高見は富栄に巧妙に接近し、これまで太宰のしてきたことを語る。太宰の真意をはかりかねる富栄。そしていよいよ運命の日がやってくる・・・

太宰治のこのあたりの話は日本文学史の参考書あたりを読んでも大体こういったことが書いてある。流石に「心中を試みるが偶然自分だけ生き残り」という書き方ではあるが、事実はどうなのだろう。それはともかく、ドラマの中での役所広司について何点か挙げておきたい。

  • 率直に言って太宰に似ていると思う。太宰定番の肖像写真が出るシーンがあるが、本物と見まがうほどである。どんな役を演じても「その人」になってしまう凄さを感じる。
  • 「役所広司の心中もの」というとどうしても「失楽園」との対比をせねばなるまい。久木は結局愛情に殉ずるわけだが、太宰はどうもそこまで深刻に考えているキャラクターではないようだ。女性に「心中」を持ちかけても結局自分が死ぬ勇気はないのである。そこに人間味を感じるのは私だけではないだろう。富栄との心中シーンを見て特にそう感じた。
  • 基本的にシリアスな作品であるが、中にコミカルなシーンが含まれているところも注目である。「人間失格」の執筆をするシーンでは世にも珍しい「ピエロ姿」が登場するし、「グッド・バイ」の内容紹介シーンもコミカルな演技だ。

内容はなかなか面白いのだが、放送局がフジであるので(2時間ドラマ再放送の枠がない。テレ朝なら期待がもてるが)再放送の可能性は薄いが、機会があったらぜひご覧いただきたい逸品である。

(初稿 1998.8.6)

1 COMMENT

esu

ファンになって30年近くですが、こちらのドラマの再放送やメディア化を待ち続けています。よく話題になる吐血シーンをいつか拝みたい…。

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA