この映画ももう語り尽くされている感がある。やはりカンヌ映画祭グランプリという評判のなせる技である。役所広司の映画がほとんど上映されていない筆者の地元(メジャー作品の中では「Shall we ダンス?」だけである。何と情けないことか)でも上映された(受賞決定後だが・・)くらいである。レンタル店に行けば100%置いてあるし、これも映画ファンの感想サイトで語り尽くされているところであるので、若干の愚見を述べるものとする。
この映画自体がそうなのであるが、全体に小津映画を思わせるような淡々とした展開である。とくに前半、山下が妻を殺してしまい、地元の警察に出頭する場面(この映画の紹介では必ず流れていた)なんかは本当に淡々としている。その応対をする警察官も淡々としている。刑事ドラマなんかだと双方ともかなり興奮する場面がありがちだが、実際はああいった感じなのだろう。
その後の展開をよく見ると山下は人間に対して心を開くことが出来ていない(うなぎだけが心を開ける対象)ために淡々としているということに気づく。逆に言うと徐々に他人に対して心を開いていくにつれ「熱を持った」人間となっていく過程がわかるのである。その過程にはたらきかけていく周囲の個性豊かな人間達。かつて刑務所にいた男の挑発に対して激怒し、取っ組み合いの喧嘩をする山下は既に他人に対して淡泊な人間ではなくなっていた。その頂点となるのが理髪店内での大立ち回り場面。あの場面の山下は自分の置かれた立場(仮出所中)をふまえた上でカミソリを手にし「あの行動」をする。この時山下は人間らしい人間に戻ったのだ・・・。
さてここでの役所広司であるが、淡々とした演技がまさに堪能できる映画である。ただそこがオールドファン的に言うと線が細い感もするところで、不満に思われる方もいるかもしれない。
その一方で、役所広司独特のキレたときの「ウォワァァァ」と言う奇声(極道ものには必ず何度か出てきた)が聞けるシーンもあり、ぜひ着目してほしいところである。(どのシーンかはあえてふれないでおこう)
(初稿1998/8/26)