正月早々これを観てみた。これも一昨年の諸映画賞を受賞した話題作なので、映画ファンのサイトに感想も多いところだ。中ではやはり「チョット難しい」「よくわからない」というものが多い。かくいう私もそう感じた。
「記憶障害」を持っている(という演技をしているらしい)間宮(萩原聖人)が接した人間を催眠術(?)で殺人者と変えてゆくという展開なのだが、第一その行動の意味がよくわからないし、なぜ間宮と接した人間が殺人を犯していくのかもよくわからないかもしれない。そして間宮と最も多く接したはずの刑事高部(役所広司)がそうならなかったのかもよくわからない。そのヒントは女医(洞口依子)とのシーンにありそうだ。間宮は記憶障害を演じる中から巧みに女医の持つ精神的トラウマを引き出している。ここで思い出されるのは精神科医師の治療方法だ。知人に聞いた話だが、精神科医の話し方というのはああいった感じで、患者にある意味ストレスを与えることでその真相にあるものを引き出すというものらしい。高部の間宮に対する第1回目の取り調べシーンでも、最初は刑事として至極冷静な話しぶりだった高部が、間宮の言葉に徐々に精神が昂揚していくさまがわかる。高部は間宮の言動に憤りを感じながらも、間宮と会話をしたくてたまらない状態となる。それをみてとった友人の医師(うじきつよし)に間宮と会うことを止められても。憎悪と同時に「すがりたい気持ち」が存在するという状態である。知人によればこれが「精神科医と患者の関係」らしい。その精神状態が間宮による催眠をかかりやすくしていったのだろう。
間宮に接した人間が「殺人は悪いこと」と理解しつつもそれをしてしまうという状態は、おそらくこんな所だと思うが、とすると高部は何故そうならなかったのか。そして最後の数シーンの意味。これがよくわからないところだ。
とまぁ色々書いてみたが、役所広司研究室的コメントもしておこう。役所広司はやはり存在感のあるところだ。管理人はオールドファンであるから、やはり「キレたシーン」に着目する。この作品の中では刑事として至極冷静な人物として描かれているが、間宮と接するシーンとなると上にも書いたように「突然キレてしまう」演技が観られる。その他では、家に帰ると妻が首を吊っている(という幻覚を見る)シーンの無声の演技。このへんがやはり「役所広司」なのである。レンタル店に行けば必ずあるのでぜひご覧いただきたい。(ちょっとグロテスクなシーンも多いけど)
(初稿1999/1/3)