役所広司がいわゆる「メジャー」になってからの最初の映画出演はこれである。ここでの役回りは「白い服を着た男」一見マフィア風の男である。登場回数は5回。
1.「そっちも映画館なの」
映画冒頭、映画館に白い服の男が情婦(黒田福美)と現れる。何故かフランスパンとワインが用意される。突然画面に寄ってきて、「そっちも映画館なのね」
映画上映中の雑音について語っている矢先に、近くにいた二人連れの観客(女性が若き日の松本明子)がたてる袋菓子の音。「映画始まってからその音たてたら、俺あんた殺すかもしれないからね・・・わかってるのか!!!」今なら携帯音か。
そして「人間てさ、死ぬ間際にさ、短い映画みたいなの見るっていうじゃない。一生の出来事サァーって走馬燈みたいにさ。その映画俺楽しみなんだよな。人間最期の映画、この映画だけは俺邪魔されたくないんだよ。あなたお願いだから死なないでとかさ、そんなの無しね」(後の伏線であることは明白である)
2.高級ホテルの一室(ベッドシーン)
ルームサービスが豪華ディナーを部屋に運ぶと、白い服の男が出てくる。奥のベットには情婦が上半身裸で座っている。ルームサービスを帰した男は、ディナーに手を着けはじめる。これが何というか・・・彼にとってディナーは情婦そのものを味わうことなのであった。レモン汁を乳首に賭けて舐める、生クリームを乳房に塗って舐める、ロブスターを体に這い回せる・・・ととにかくやりたい放題。
バックに流れる、マーラー「交響曲第5番 第4楽章」が効果的
3.ホテルの一室
白い服の男は外でホームレスたちが歌を歌っている光景を眺めている。そこに情婦が現われる。白い服の男はテーブルの上にあった卵を割って黄身を取り出し、口に含む。ここから当時話題となった「卵の黄身セックス」シーンとなる。4往復目に興奮した女が黄身を噛んでしまい、レースに黄身が流れ落ちる。非常に官能的なシーン。
4.海辺
白い服の男は海女が牡蛎を採る光景を眺めている。そこに海からあがってきた若い海女(若き日の洞口依子)「牡蛎をくれないか」「いいよ」牡蛎にしゃぶりつくが、唇を切り血が流れる。それを見た海女、唇を舐める。(非常に生々しい映像である)海女たちはその光景を遠くから眺めている。
5.雨の降りしきる公園
白い服の男は街角で銃撃され、公園まで逃げてきたところで倒れこむ。駆け寄る情婦。
再び、マーラー交響曲第5番第4楽章が流れる中、白い服の男は「イノシシの山芋腸詰め」の作り方・食べ方の話を女にして息絶える。
「そうね、わさび醤油なんか合うわね」
「タンポポ」は私が中学3年の時の映画だった。一時期はよくTVでも再放送されたものだが、最近ではあまり話題に上らないところであった。伊丹十三監督作品自体が氏の没後やや等閑にされている感があったが、ようやく最近全作品がDVD化されたことは特筆に価する。個人的には伊丹作品の中でもギャグ性が最も優れている作品だと思う。
ちなみに役所広司の登場シーンは女性がご覧になると「引いて」しまうような場面が多いが、食わず嫌いすることなく是非観ていただきたい一本である。
(初稿1998/3/11)